部分群がとっつきづらい?

 部分群の定義がいろいろあって分かりづらかったのでまとめてみました。

部分群の定義

 赤雪江[1]では部分群はこのように定義される;

定義1
 Gを群とする。部分集合H \subset Gであって、Gの演算によって群となるHGの部分群という。これをH \leq Gと書く。

 定義1は少しとっつきづらい(と僕は最初感じた)。どうとっつきづらいかというと、群には単位元および逆元の一意性があるが、定義1により群となるHのそれとはGのそれと違うのだろうか?次の定義2および命題1はその答えを教えてくれる;

定義2
 Gを群とする。部分集合H \subset Gであって、次を満たすようなHGの部分群という;
(i)e_G \in H
(ii)a,b \in Hならばa *_G b \in H
(iii)\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在する

これを部分群の定義としている文献も多く見かける。注意として、(i)e_G \in Hと(iii)のa \in Hの逆元は、Gでのそれと一致している。

命題1
 定義1定義2とは同値である。

証明)

まず、Gは群であるから、Gは空でない集合で二項演算G \times G \rightarrow Gが定義されていて
(p0)\forall a,b \in G, a *_G b \in G
(p1)\forall a,b,c \in G, (a *_G b)*_G c=a *_G (b*_G c)
(p2)\exists e_G \in G, \forall a \in G, e_G *_G a=a *_G e_G=a
(p3)\forall a \in G, \exists a^{-1} \in G, a^{-1} *_G a=a *_G a^{-1}=e
を満たしている。

(定義1\Rightarrow定義2)
 仮定よりHは群となるから単位元e_H \in Hが存在する。これはe_G \in Gと一致するだろうか?
HGの部分集合であるからe_H \in Gの元でもあり、G上の演算によってHが群をなすから①e_H*_G e_H=e_Hが言える。*_GHが群をなすからe_H \in H\forall a \in Hに対してe *_G a=a *_G e=aを満たす。
(p3)よりe_H \in Gに対してe_H^{-1} \in Gが存在して②e_H^{-1} *_G e_H=e_H *_G e_H^{-1}=e_Gを満たす。②より①に左からe_H^{-1}をかけて、e_H^{-1}*_G (e_H*_G e_H)=(e_H^{-1}*_G e_H)*_G e_H=e_H^{-1}*_G e_Hすなわちe_G *_G e_H=e_G。左辺は(p2)よりe_Hと等しいからe_H=e_Gとなる。
よって、(i)e_G \in Hが成り立つ。
 ところで「Gの演算*_GによってHが群をなす」というのが仮定であった。例えば、a,b \in \mathbb{N}に対してa<bならばa-b<0a-b \notin \mathbb{N}という閉じていない例はそもそも考えないのである。仮定によって「そもそも定義されている」という意味で当たり前に、(ii)a,b \in Hならばa *_G b \in Hは成り立つ。
 そして、逆元についてもHは群と仮定しているから存在性は担保されている。重要なのはそれがGでのそれと一致していることだ。これは(p0)-(p3)により確認できる;
a^{-1}_H \overset{(p2)}{=} a^{-1}_H *_G e_G \overset{(p3)}{=} a^{-1}_H *_G (a *_G a^{-1}_G) \overset{(p1)}{=} (a^{-1}_H *_G a )*_G a^{-1}_G \overset{(p3)}{=} e_G *_G a^{-1}_G \overset{(p2)}{=} a^{-1}_G
a \in Hは任意だからa^{-1}_H= a^{-1}_Gを得る。よって、(iii)\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在する。■

(定義2\Rightarrow定義1)
 逆に、H \subset Gが(i)-(iii)を満たすとしよう。HG上の演算で群をなすことを示せば良い。
 まず、(i)e_G \in HよりHは空集合でない。これはHが群であるための条件としては最低限のものである。(ii)a,b \in Hならばa *_G b \in Hより、それをH \times Hに制限した二項演算*_H:H \times H \rightarrow Hを定める(演算規則はそのままである)。
 Gでの単位元e_G \in Gについて、\forall a \in Gに対してe_G *_G a=a *_G e_G=aを満たすから、特にHGの部分集合ゆえ\forall a \in Hについてもe_G *_H a=a *_H e_G=aが成り立ち、(i)e_G \in HHでも単位元である。
 また、Gは群であり結合法則(p1)を満たすから、その演算を制限していて演算規則を継承しているHでも結合法則が成り立つ。
 そして、(iii)\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在するから、\forall a \in Hに対してGの演算によりa^{-1}_G *_G a=a *_G a^{-1}_G=e_G \in Hゆえ、演算規則がそのままであれば、a^{-1}_GHにおいても逆元である。
 以上より、HGの演算によって群になる。■

 定義2は、それと同値な定義によって簡単にできる;

定義3
 Gを群とする。G空でない部分集合H \subset Gであって、次を満たすようなHGの部分群という;
(i)a,b \in Hならばa *_G b \in H
(ii)\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在する。

Hが空集合でないことを仮定する代わりに、単位元の存在性を課さないというものである。

命題2
 定義2定義3とは同値である。

証明)
(定義2\Rightarrow定義3)
 定義2において(i)e_G \in Hゆえ、集合Hが空集合でないことは満たされている。その上で(ii)(iii)を仮定すれば定義3に一致する。■

(定義3\Rightarrow定義2)
 Hが空集合でなければ、ある元a\in Hが存在する。定義3において、(ii)よりa \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在して、a^{-1}_G *_G a=a *_ G a^{-1}_G=e_Gとなる。(i)によりHGの演算によって閉じているからe_G \in Hが得られる。よって、Hが空集合でなければ、(i)(ii)の仮定により定義2と一致する。■

 実は、より簡単な部分群の判定としての定義がある。

定義4
 Gを群とする。Gの空でない部分集合H \subset Gであって、

    \[\forall a, b \in H, a*_G b^{-1}_G \in H\]


を満たすようなHGの部分群という。

命題3
 定義3定義4とは同値である。

証明)
(定義3\Rightarrow定義4)
 定義3(ii)より、\forall b \in Hに対してb^{-1}_G \in Hが存在する。次に、(i)より\forall a,b \in Hに対してa*_G b \in Hが存在する。以上より、\forall a,b \in Hに対してb^{-1}_G \in Hが存在して、b\in Hは任意だからa*_G b^{-1} \in Hが成り立つ。■

(定義4\Rightarrow定義3)
 まず、Hは空集合でないからあるa \in Hが存在する。仮定よりa \in Hに対してa *_G a^{-1}_G \in Hが存在する。群Gの演算に従うと、これは単位元e_Gに等しくe_G \in H。また、a,b \in Hは任意だからa=e_Gとおくとe_G *_G b^{-1}_G = b^{-1}_G \in Hとなって、\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在する。以上から、\forall a,b \in Hに対してb^{-1}_G \in Hが存在して、b\in Hは任意だからa*_G (b^{-1})^{-1}=a*_G b \in Hが成り立つ。■

まとめ

 命題1命題3をまとめると、定義1定義4は同値である;

定理:部分群
 群Gとその部分集合Hに対して、次は同値である。
(1)H \leq G(HG上の二項演算によって群となる)
(2)「e_G \in Hかつ、a,b \in Hならばa *_G b \in Hかつ、\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在する」が成り立つ
(3)「H \neq \emptysetかつ、a,b \in Hならばa *_G b \in Hかつ、\forall a \in Hに対してa^{-1}_G \in Hが存在する」が成り立つ
(4)「H \neq \emptysetかつ、\forall a, b \in Hに対してa*_G b^{-1}_G \in Hが存在する」が成り立つ

 実際に群Gの部分集合Hが部分群であることを判定するためには(4)を用いるのが便利であろう。しかし、部分群の理解という観点から(1)\Leftrightarrow(2)を示すことは重要であると考えられる。実感として、これを示す前と後とでは(1)に対する理解度が格段に違ってくる。

参考文献

[1]雪江明彦、代数学1 群論入門 [第2版]、日本評論社、2023、31-32
[2]永井保成、代数学入門 群・環・体の基礎とガロワ理論、森北出版、2024、7-8,160
[3]加塩朋和、代数学1、2024、12-13